夷洲斎日乗   老読者の読書日記

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zoom RSS 妄想が暴走

<<   作成日時 : 2012/08/25 22:05   >>

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 読書日記などつけている場合ではない暑さである。
 これで「残暑」と言うのだから参る。
 少なくとも、深刻な内容の本を読む気力は確実に失せているが……
 実は例年のように、夏のヨコミゾ祭を勝手に開催、今年は金田一もの以外にも『真珠郎』(扶桑社文庫版)なんかまで読んだのだが、それの解説や付録の横溝自身が戦前に書いた「探偵小説論」に、かなりの重要度で取り上げられていたのが
『黒死荘の殺人』 カーター・ディクスン 南條竹則・高沢 治=訳 創元推理文庫
 横溝正史の伝記的記述には繰り返し出てくるエピソードだが、「戦時中」探偵小説が事実上禁止状態となって(多くは、出版業界の〈自粛〉ムードが過半、だと思う。わが祖国は、現在でもそういう方法で表現を規制しているし。暗黙のナンたらいうやつだ)いる間、カーの原書を読んで、それが戦後すぐの『本陣殺人事件』に繋がったというハナシがある。
『プレーグ・コートの殺人』(旧ハヤカワ文庫版はそういう邦題)は、その〈密室〉トリックがあまりにも有名だ。例によって、どこがどう凄いのかは書けはしないが。
 しかし、今回の新訳では、ある意味卑怯すれすれの密室トリック(実は、ディクスン名義の…つまりヘンリ・メリヴェール卿が探偵役のシリーズは、トリック自体は機械的というか物理的なトリックが多く、それがあまりにも馬鹿げた駄作も、実はこっちに多いのであるが)ではなく、真犯人の意外性(フーダニット)が、細心の注意で書かれていることに気付かされた。
 再読であるために「犯人」が最初からわかっていた(といっても、途中まで思い出せなかったが)ため、その犯人の隠匿の仕方というか、読者に重要な登場人物だと微妙に意識させないような書き方、そこがかなり巧いということに気付いたのだ。
 そのあたりのプロットの巧みさが、(実は)この作家の真骨頂で、密室トリック自体は、小説に怪奇性を帯びさせるためのギミックに過ぎない、そして、まさにソコが、『本陣殺人事件』と同一であるこということだ。
 以下、少しネタバレあり




 その屋敷(プレーグ・コート)に纏わる伝説は、怪奇性の強調だけでなく、ある意味奇妙で不自然な(偽の)〈凶器〉に必然性をもたらすために設定されているということ。それが、例の物理トリックに関わる。ネタバレすると、「凶器を錯覚させる」ために設定されている(その為、その凶器が事前に博物館から盗み出されている)ことが、今回の新訳ではとても良く分かる。
 登場人物たちのそれぞれ奇妙な行動にも、ちゃんと納得のいく「説明」がつけられていて、HM卿が「謎解き」をする際に、明らかにされるし、つまり、すべてが解明された後の「意味」の変わり方が劇的なのである。



 まあ、いわゆるブンガクの側からすれば、そんなカラクリ人形芝居じみたものはブンガク性が低いと感ずるのだろうが、この、最後にガラリと「意味」がひっくり返るというのが探偵小説(ミステリー)の醍醐味というやつで、そのためには「人間性の真実」などというのがある程度モデル化されて書かれるのは仕方がないのである。仕方がない、というか、必然的、といってもいい。
 つまり、ブンガクではないがテツガクではあるということ。
 登場人物がモデル化されているのも、名探偵が「神の如き」叡智で出来事を裁断するのも(もっとも、これのHM卿はかなりトリックスターじみた神だが)、ミステリーというものが、ブンガクではなくテツガクへの捧げ物だということを顕しているのだ。
 ……暑さでそんなことを妄想してしまったが、あながち間違ってはいない気もする。
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