夷洲斎日乗   老読者の読書日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 最低限文化的な

<<   作成日時 : 2012/09/19 21:31   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 ようやく今週末から秋らしくなる、と中期的な予報ではいっているが、そうなると今度は台風が直撃コースを通るということでもある。今年の台風はナンカでかいから、本土直撃となるととんでもないことになりかねない…桑原桑原(これは本来雷除けの呪文)
 セー界も相変わらずで、もう床屋談義もどきする気も失せる。
『盤上の夜』 宮内悠介 東京創元社
 わたしが幼い頃は、まだ床屋で碁や将棋を指している年寄りがいて、結構野放図な政治談議をしたりしていた(それを床屋談義と呼ぶ)ものだが、近頃どころか、昭和も50年代に入ったころにはとんとそんな風景を見かけることもなくなってしまっていた。そうなると共に、囲碁や将棋は、少なくとも〈日常的〉なゲームではなくなっていたとも言える。
 将棋はともかく、碁はルールがシンプルなだけにヤルのはかえって難しいゲームだ。(野球観戦よりサッカー観戦の方が難しいのと同じリクツである)
 ルールブック片手に初心者同士で初対戦を試みても、将棋ならヘボはヘボなりに何とかなるが、碁の方は互いに優勢なのか劣勢なのかすら判断が出来ない始末になる。
 だが、それだけに何というか、「神秘性」が高い。それはムカシからそうらしく、仙境に迷い込むと仙人や神々が碁を指していて、それを観戦しているうちに何百年も経っていたとかいう伝説や民話の類が良くある。
 碁と言うゲームにSF性があるとすれば、その数学的な要素ではなくて、そういった〈神秘性〉の方にこそあるのだろう。マトリックス上を黒と白の光点が角逐する様は、イメージとしても〈宇宙〉というか〈セカイ〉を思わせる美しさもある。
 でも、素直に本文を読めば「象を飛ばした王子」以外は(いや、これもある意味(実は)そうであるかもしれないが)感覚異常というか、異常感覚の物語であると、次第に分かってくる。
「盤上の夜」の灰原由宇の、碁盤に対する皮膚感覚(といってしまっていいかどうかは微妙だが)、「人間の王」は一見分かりにくいが、実は〈神〉という存在との共感覚とでも言うべき異常感覚が描かれている(と、わたしは思う)それに、「清められた卓」はミステリー的なオチに関わるので詳しく書けないが、真田優澄はある異常感覚で〈牌を読む〉「千年の虚空」は、これは異常かどうかは兎角、読んでいる本や、それこそゲームの盤面が〈セカイ〉と(ぴったり)連動していて、そちらを変える事で〈セカイ〉の方を変えられるという感覚を中心とした〈物語〉だ。

 …それにしても、少し前に無理矢理「SFタグ」を付けたコルタサルの『秘密の武器』の中の「追い求める男」と「盤上の夜」との類似には少し驚く。どちらも伝記作者、あるいは記者が語り手で、彼が、あるいは彼女が〈見た〉ものを何とか〈表現〉しようとする、という小説であること……が同じである。あの時は少し挑戦的な意味でSFに分類したのだが、今回は何しろ創元SF短篇賞に応募しているわけだし、自他ともにSFと認められた短篇であるのは間違いない。
 
 その「盤上の夜」は、ダルマ女の都市伝説、中国の場末の掛け碁の雰囲気、現代のプロの世界のあまりに俗に流された空気への批判など、読者へのこれでもかというサービスが盛られているが、結局のところ、灰原由宇という女流棋士がいかなるセカイを〈見て〉いたのかという、そこに尽きる短篇なのである。
 SFは、読者に様々なものを……本来なら、見られないはずの光景を見せてきたジャンルだ。宇宙、異世界、地球の滅亡、過去や未来といった時間や、人類の生物としての進化の果てまで……その中に、他人の、それも特別な他人の〈頭の中〉というのも、もちろん含まれている。実は、それが一番センス・オブ・ワンダーを体現しているといっても過言ではないくらいに。
 そういう意味では、このSF短篇集は変化球ではなく、ごく正統なSFの、21世紀における嫡子であるとも言えると思う。
盤上の夜 (創元日本SF叢書)
東京創元社
宮内 悠介

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 盤上の夜 (創元日本SF叢書) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
最低限文化的な 夷洲斎日乗   老読者の読書日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる