夷洲斎日乗   老読者の読書日記

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zoom RSS 珈琲の渦を見てゐる寅彦忌 有馬朗人

<<   作成日時 : 2012/10/07 15:09   >>

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 まあ、何とか、かろうじて、「秋」…か?
 2ヶ月以上猛暑が続いたせいか、何だか全身に疲労感が残っている。
 たまに「報道ステーション」とか観ると、世間全体がこの疲労感というか、徒労感に包まれたニュースばかりな気がして来るから不思議なモノだ。
『怪異考/化物の進化 寺田寅彦随筆選集』 寺田寅彦 千葉俊二・細川光洋=編 中公文庫
 かろうじて、といえば、これは「怪談本」の範疇に、かろうじて含まれる本。
 寺田寅彦は一応地震学者だったために、3・11以降見直される傾向があるようだ。この文庫オリジナルの随筆集も、その流れからくるのだろう。
 俳句の冬の季語に「寅彦忌」(何と12月31日だ)があり、漱石一門(芸人っぽいな)であることから分かるように、科学者でありながら文学史にその名を残している稀有な存在である。ちょっと調べると、科学者としてもかなりの業績を残しているのがわかる。
 特に、最初の「怪異考」の、孕(はらみ)という地における「ジャン」という奇現象(夜中に、海からジャーンという音が響いてくる)と、大地震との関係を物理学(地震学)的に結びつける試みで、ほんのさわりだが面白い。
 このヒトの随筆を読むと、科学的思考というモノの(ほぼ)厳密な適用と、文芸的情趣のバランスが取れた文章で、文芸史上にも特異な地位を占める。
 そして、一貫して、モノに感じないような人間は、真の科学者とは呼べないという「真理」を説き続けている。
〈ともかくも「ゾッとする事」を知らないような豪傑が、仮に科学者になったとしたら、先ずあまりたいした仕事は出来そうにも思われない〉(「化物の進化」より)
「ゾッとする事」を知らない「科学技術」の豪傑たちが。活断層の真上に原発を建てたりする、そんな現在(いま)の状況に対する明快な警鐘だ。
〈科学者〉と〈科学技術者〉には実は明確な違いがある。〈豪傑〉は〈科学技術者〉の方が大部分だろう。
 サイエンティストとテクノロジストがまったくの別物だという単純な事実を、〈一般〉があまりにも意識せずに済ませている…フクシマの事態は、(事象は?)そんなトコロに遠い(が重要な)原因があるということ…この、日本では科学史上数少ない〈科学者〉のひとりの随筆を読むと、そういうコトも「読めて」くる。
 経済性とか、効率とか、そんな一見「論理的」な思考形式(現代とはソレが支配する時代だが)と、〈科学〉とはまったく、何の関係もないことも、この本を読むと薄々分かってくる。
「論理の正しさ」が即ち「正義」というわけではない。
 そんな単純なコトを知るのに、フツーのヒトはあまりにも多くの挫折を経験する必要がある。
 テツガクが如来(彼岸へイッてしまう)なら、カガクは菩薩の行だろう。
 ヒトやモノの(最後にはカミの)「在る」というフシギに感じて、その「在り方」を解明する…そして、ソレを衆生に広める…
 後半の科学エッセイや談話会を読むと、量子力学、フラクタル理論、不確定性原理など、かなり後に立論される様々な理論の萌芽が見られるし、それらと前半の「モノ」たちとが同列に文芸的に処理されていることに、なんと言うか感動すらおぼえる。
 また、それらの随筆(エッセイ)が、特に科学の啓蒙の〈ために〉書かれているわけではない、という点が素晴らしい。随筆としての「面白さ」はキチンと保証されている。
(真の)科学的思考が、セカイに満ちる驚異や恐怖を漸減するのではなく、むしろ増やすということが分かる本だ。
 正式に科学の徒たらんとすれば、当然通過しなくてはならない「退屈」な「事務」を飛ばして、そのエッセンスだけを伝えてくれるのだから、文系の(文芸の)読者(衆生)にとってはかなりお得な読書体験となる……そんな「方便」もある。(それが「菩薩行」という意味だ)
怪異考/化物の進化 - 寺田寅彦随筆選集 (中公文庫)
中央公論新社
2012-08-23
寺田 寅彦

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