夷洲斎日乗   老読者の読書日記

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zoom RSS 隠すと顕れる

<<   作成日時 : 2012/10/11 21:16   >>

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 床屋政談「的な」セージの色々も含め、どうにも世間は〈間〉が悪くなっている。
 しかも、お偉方は、自分の〈間〉がかなり悪くなっていることに気付いていない。
 特に定見が無さそうなソーリもそうだし、国士気取りの輩も同じコトで、どうにもこうにも〈間〉が悪い。……善を成すにも悪を為すにも、〈間〉ってのは大事だ。それが無いと、どうにも腑抜けた善悪、になる。
『ねじの回転』 ジェイムズ 土屋政雄=訳 光文社古典新訳文庫
 近代ホラーの古典(なんか矛盾した表現だが)
 確か厨房の頃、新潮文庫のを読んだはずだが、その時、あまり強く印象に残ったわけではない。今回、この新訳版を読んで思ったのは、そりゃ、厨房にはムリだわ、という感想だ。
 あの時も今回も、ホラー小説を読んで感じる〈怖さ〉を特に強く感じたわけじゃないのは同じだ。
 しかし、今回は別種の〈怖さ〉を感じることが出来た。
 一応、亡霊らしきモノは出てくるが、その〈亡霊たち〉の本当の意味、に気付く事が出来たからである。
 この新訳では、どちらかと言えば女家庭教師(なんか、もうそれだけで(現在では)エロイ響きをもつわけだが)の〈妄想〉に傾いたカンジがする。
 悪霊と戦う純正ホラーというより、自身の(性的)妄想と(かなりヤバい条件にも関わらず、雇い主に対するハーレクィン的な妄想から引き受けてしまう、という点も含めて)葛藤する独身女性の(ビクトリア朝当時の女家庭教師が持つ独特の〈地位〉…つまり使用人ではなく、有る程度の教養と、現在なら充分エグゼクティブの資格を持っていながら、こうした職に就く他生活の道が無かった〈女性〉の、)抑圧された性的妄想…
 実際に〈霊〉が居る居ないに関わらず、この小説はそうした一面を確かに持っている。
 さらに、悪霊にとり憑かれている兄妹、特に男の子供がかつてこの屋敷でクイントという男と性的関係にあったという伏流…(そのクイントがバイセクシャルで、しかも殆ど姿を現さない「雇い主」が連れてきた人物だと言うことに留意するべきだ)主人公の女家庭教師は、この(セクシャルな意味では)自分より成熟したこの少年に、かなり翻弄される。
 彼女が、このクイントと前任の女家庭教師の〈霊〉を見る/見たのは(その〈実在〉の問題は置くとしても)そうした心理的な、もっとはっきりいえば性的な意味を持つ、ということ。
 そして、19世紀末の欧米文化では、たとえ小説中でソレが重要……実質テーマであっても、隠される、ということ。
 そして、例えばシャーロック・ホームズを読んでもそうなのだが、ことさらに隠せば隠すほど、ソレが顕れる構造……
 他の健全な(グロースという家政婦は、まさにそのために登場している)人間には〈見えない〉霊たちは、姿を見せない雇い主と、女家庭教師と、教え子の兄妹の間にある性的緊張の象徴だとすら言いえると思う。
 ここから敷衍すれば、ゴシック・ホラーという、この小説もその伝統の中で書かれている一ジャンルの、真の意味、頽廃的な性的ファンタジーを包む外形だという意味も見えてくる。
 19世紀後半、ビクトリア朝の時代は、厳格な性的規範(口に出すことすら忌避する)にもかかわらず、ポルノ小説が隆盛した時代でもある。ゴシック・ホラーの枠組みは、そのまま館という閉鎖空間での性的な放埓を描写したポルノの構造そのもの(時代は下るが「O嬢の物語」、とか)であり、ヘンリー・ジェイムズは、はっきりとそのことを意識してこの小説を書いている。
 隠せば隠すほど露わになる、性(セックス)という主題(テーマ)。
 そのねじれた抑圧と爆発のリズムこそが、霊の実在如何に関わらず、サイコ・ホラーとして金字塔だと言えるだろう。
 実際、ヒロインの「追い詰められ」っぷりが、何というかとてもエロい。
 それだけは間違いのないところである。
ねじの回転 (光文社古典新訳文庫)
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2012-09-12
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