「ジャンキー」W.S.バロウズ 鮎川信夫 訳 河出文庫

 平日に読むもんじゃねえな。
 通常の生活の中で、“ナニカ”のヤル気が削がれるのは必至の本である。積み込んでいたのも、そのあたりに理由があるのだろうっていう気がする。
 恐ろしく淡々と、“ジャンキー”となった日常が綴られている(だけ)。あまりにも淡々と、乾いた、読み易い文体で書かれている為に、至極当たり前の“日常が”描写されていると、錯覚を起こすほどである。
 読みながら、ディックの「暗闇のスキャナー」が思い出された。だが、あれはSFの形式で書かれているし、何より、ドラッグやジャンキー達に対する眼差しが、かなりウェットでドラマチックである。しかし、警官とのやりとりとか、ただボーゼンと、特に感慨も無く過ごされて行く、“日常”の描写には、どこか共通したものがある。
 比較、という点では、ジュネの「葬儀」も(ついこの間読んだばかりだし)、ヤクのために地下鉄で介抱泥棒をするあたりに、どこと無く共通した感触がある。…もっとも、あれほどの“あえて堕ちていく美学”みたいなものは、欠片も無いが。
 ディックのように涙に濡れた“あの頃の”記憶も、ジュネのような、ある意味“小説”を書くために行われる悪事といった(その、ジャーナリスティックな部分、レポの為の潜入体験めいた部分が、ごく微かに鼻につくところではあった)モノは、ほんとうに何も無い
 淡々と、“正しいジャンキーのなり方”が綴られていく中で、人がジャンキーに“なる”のに特別な理由など無く、ゆるーく、いつの間にかそうなっていく過程が、抑制の効いた、乾いた文章で、あまりにもわかり易く書かれているだけなのである。
 そのため、かえって不気味な効果が生じることもあるかもしれない。一種の“怪談”とか“都市伝説”に似た効果、とでもいうか…
 書かれたテキストは、“事実”ではありえないのはわかっているが、ここまで、誇大も卑下もなく、自己のして来たことを表現できるのは、おそらくバロウズだけだろう。なんというか、言い訳でも開き直りでもないのだ。
 そういった感触の本である。(積まないで、早めに読んでおけば良かったかもしれないと、思わず後悔する本だったことは確かだ)
ジャンキー (河出文庫)
河出書房新社
ウィリアム バロウズ

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