セツナイハナシ

 昨日急に気温が下がった。今週は梅雨の予行演習らしい。
 21世紀に入ってから、やはり季節が前倒しってカンジがする。
 福島に台風が行ったらどうなるのかね。現状、屋根が無い状態だけど。

『蜘蛛女のキス』 マヌエル・プイグ 野谷文昭=訳 集英社文庫
〈ラテンアメリカの文学〉復刊シリーズ第2弾。
 これは、読んだ覚えが実は無かった。

 ラテンアメリカの小説を読んでいつも感じるのは、とにかく「面白くしよう」としている、という一点である。
 何と言うか、そこだけはボルヘスもガルシア=マルケスも変わりない。
 自分の書く小説を、「面白く」しようとしない作家なんかいるのか、と思われるかもしれないが、いるんだな、これが……(それも、意外に多いんだな)
「時代」のせいで面白く感じられないとかいうような問題ではなく、また、アメリカ人が言うところの「エンターテイメント」の問題でも、実はない。
〈読者〉という顔が見えない不特定多数、空間も時間も越えた存在、をどう認知しているかのかという問題なのだ。
「面白いおはなし」にしようとする、この感覚はカルヴィーノとも共通する。
 もしかしたら、ラテン語から(直接)派生した言語には、作者(語り手)をしてそのようにさせるナニカがあるのかもしれない、などと考えてしまう。

「蜘蛛女のキス」は設定は簡単で、登場人物は二人だけ、同性愛者で、現代日本なら未成年者淫行条例違反のモリーナと、革命家(アカい方の)で政治犯のバレンティン。舞台は刑務所の二人房。
 眠れぬ夜の徒然に、モリーナ(女っぽい名前だが、これが姓であることがやがてわかる)が昔見た映画を語るのを、バレンティンがツッコミを入れながら聴いている。
 所謂「地の文」は一切無く、二人の会話だけで成り立っている。
 それにしても、身の回りに一人は居る、あの、映画自体より映画を面白く語る人、それがモリーナという人物である。訳者は、彼(彼女)の言葉をオネエ言葉で表現している。不思議と、違和感はない。(日本の映画解説者に、ソッチの業界人が多いからだろうか)
 語り手も聞き手も、監獄に入れられているという状況で、専ら語られるのが映画のハナシというのは、それだけでちょっとグッとくる設定だ。
 最初に語られているのが『キャット・ピープル』らしいと分かった以外は、2番目は古いナチ宣伝映画(『運命』という題名らしいのだが)、3番目が「○○・オブ・リビングデッド」でない方の、ブードゥー教の(つまり正式の方の)ゾンビ・ホラー映画、ル・マンに出場していたレーサーが、故郷の南米で政争と革命に巻き込まれるという映画、最後が、新聞記者と黒幕的実業家の愛人である元女優との悲恋、なのだが、実際にある映画なのか、架空の映画なのかも、映画史的に無知な当方にはわからない。
 しかし、こう書き出してみると、この「順番」が、実は登場人物(二人だけだが)の関係性の変化を表しているのが見えてきた。
 なかなか巧妙な技法である。
 しかし、何よりもこの小説は、同性愛者のせつない恋愛映画なのだ。(原注がそれを示唆している)
 それだけでもいい、モリーナのキャラで泣くだけでも読む価値がある。

 作者自身によって戯曲化されているし、何よりコレ自体映画化されている。
 ソッチの方も見たくなったのは確かである。
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