ノベルスなのに携帯し難い本(しかも上下巻)

 祝日が土曜に重なるのは、昔は嬉しかったものだ。
 振り替え休日がいい制度かどうかは疑問だが、土曜日に祝日が重なった時の〈お得感〉が180度変わったのは確かなことである。
『暗黒館の殺人 (上・下)』 綾辻行人 講談社ノベルス
 2月は大部の本を読むのに、感覚的に丁度良い気が以前からしていた。
 この月の、中途半端さが、〈ぶっとい本〉を詠むのに逆に適している。
 思えば、『虚無への供物』とか『匣の中の失楽』とかいったブ厚いミステリーは、皆2月に読んだ。
 に、しても、歳を感じずにはいられない。上記2冊がそれぞれ上下巻といった感じの量を読むのに、これほど時間が掛かるとは……
 もうひとつ、上梓されてからこれほど時が経ってから読んだのにはわけがあって、この小説の大オチを事前に知ってしまったかなのだが、普段本格ミステリーを再読する時に、誰が犯人だったかとかトリックの詳細な内容を忘れてしまっているものなのに、こういう場合には何故か執拗に脳裏に残っているものだという、読書アルアルを身をもって体験してしまったわけだ。
 ミステリー(特に本格)について評なり感想などをネットにあげる時は気をつけなくてはならないと、まあ自戒の念も含めて殊更に書いておくが、この『大作』を未読で、読む気のある人は以下の文章は読まないでもらいたい。


 正直、わたし自身の事前のアクシデントが無くても、この〈館〉シリーズにいつも感じているように、ガチガチの本格ミステリーを期待すると肩透かしを喰らった気分になっただろうというのは否めない。
 しかし考えてみると、この〈館〉シリーズというのは、『時計館』を除けばそれほど〈本格〉というわけではなかった。
 綾辻行人自体、〈新本格〉の先駆者というより、幻想怪奇ミステリー…方面の志向が強い…気がする。
 そういう意味では、この長い小説は幻想怪奇小説そのもの、である。
 全体の枠組みとしての〈夢オチ〉も、いわば事故の衝撃で別世界へ旅立つというパターンのファンタジーの設定と考えればいい。
 もちろん、殺人事件は起こるし、ある程度意外な犯人も提示されるが、それは2つの条件に当てはまるかどうかの単純な論理問題で解決される(その条件に当てはまる人物が、ミステリー的にというよりファンタジー的に偽装されているのがこの小説の(本格ミステリーとしての特徴なのだが)し、館の奇妙な構造とその秘密は、穴があくほど見取り図を見れば、何の表記もされていない空白を見つけるのは、実は容易い。
 実は導入部と本編部分との時間的な食い違いは最初から(ゴシック体で強調されて)提示されているし、そういう時間的・時代的齟齬を利用したミステリーというのも、飽きるほどミステリーを読んだ者にはすぐにそう気付くように書かれている。
 従って、本質的にこの小説の〈ミステリー〉の部分は外枠、なのである。
『黒死館』を思わせる、暗黒館の創立者とその外国人妻、シャム双生児の美人姉妹に、早老症の少年、その母親たちはそれぞれに精神を病んで、と館の住人たちはいわば造られた畸形の饗宴で、本編の視点人物(ご丁寧に、視点、という言葉でこれが夢であることを示唆しているのだが)私、こと〈中也〉は怪奇ファンタジーの王道に則って、その怪奇な館に外部から招待された人物である。
 まあ、その〈正体〉も、時間トリックに気付けばすぐにわかるのだが。
 さて、そのオカルト部分だが、〈不死者〉の血脈というのが、ミステリー的な意味で真実なのかは最後まで明らかにはされない。
 そういう意味で、一番最後が〈火刑法廷〉っぽくなっているのも、多分意識的だ。

 ホラー・ファンタジーとして読んだ場合にも、本格ミステリーとして読んだ場合にも、正直いま一つピンとこない部分が多いが、まさに『暗黒館』そのもののように、奇妙で奇怪な文芸的営為の混合物、としては充分に、隠微に、愉しめる小説だ。
 古い洋館とその閉じた内部に凝った血脈……考えてみれば、ミステリーの父、であるポーは、「アッシャー家の崩壊」を書いた作家でもあるわけで、この小説はその二つの側面の正統な後継(を目指した)であると言えなくもない。
 ま、わたしにオチをかましてくれたヤツのように、論理が神である本格を読みたい人には重大な裏切りにも見えるかもしれないが……
暗黒館の殺人 (上) (講談社ノベルス)
講談社
綾辻 行人

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暗黒館の殺人 (下) (講談社ノベルス)
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暗黒館の殺人(一) (講談社文庫)
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暗黒館の殺人(二) (講談社文庫)
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暗黒館の殺人(三) (講談社文庫)
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暗黒館の殺人(四) (講談社文庫)
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