「乱歩の幻影」日下三蔵=編 ちくま文庫

 江戸川乱歩にまつわるアンソロジー。

 もう10年前の文庫本。
 帯に、「江戸川乱歩の作品、趣味、性向、人柄等を題材とした小説十篇」とある。
 その通り、かなりヴァラエティに富んだ内容だ。

 江戸川乱歩という作家自体、まずは少年探偵団ものが記憶の底に沈殿している。それは間違いない。
 今思うと不思議なのは、あの二十面相のトンでもない策略を、空気か水のように納得して呼んでいた時期があったということだ。子供の恐怖心に訴えかける怪物だの、ロボットだのの数々…

 そして、中学時代に夢中になった初期の短篇群、あの隠微な、イケナイものを読んでいるという、密やかな愉しみ。「鏡地獄」なんかは、夢に魘されたことがあるくらいだ。

 江戸川乱歩という作家が書く小説は、論理的に解析不可能な魅力に満ちている。本人がどう思っていようとも、人間のダークな部分(誰でも必ず秘めている部分)と否応無く向き合わされるという意味では、本当に貴重な作家だと思う。例え、ストーリーテリングとしてはあまり優秀といえなくとも、である。

 山田風太郎の「伊賀の散歩者」が、なんといっても一番面白い。乱歩の祖先について虚実を取り混ぜ、しかも「忍法帖」の一篇にしてしまう皮肉っぽい感じが堪えられない。
 次点は、蘭光生「乱歩を読みすぎた男」だろうか。かつて「人間豹」に興奮した男が、若い女性を拉致して、まったく同じシチュエーションで犯す、というポルノ小説だ。大乱歩の〈本質〉を、これほど的確に、そして現代風に甦らせた小説は無いとさえ思える。
 もうひとつ挙げておくとすれば、角田喜久雄「沼垂の女」だろうか。ほとんど乱歩自身とは関係ないのだが、終戦直後の鉄道の旅の描写が面白い。
 その他にも、中島河太郎の〈小説〉(「伝記小説 江戸川乱歩」)という、珍しいものが読める。

 まあ、乱歩というヒトが、他のミステリー作家に比べて小説にしたくなる人物だというのが、とても良くわかる。これくらい、一種の伝説に彩られた人物像というのは、もう出て来ることはないだろう。
乱歩の幻影 (ちくま文庫)
筑摩書房

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