夷洲斎日乗   老読者の読書日記

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<<   作成日時 : 2012/10/27 20:29   >>

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 文芸者としては言葉遣いが全然なっていなかった石原都知事が辞めた。
 元気と言うか乱暴と言うか、歳とって一層短気というか、まだ伝説の「障子破り」でもやるつもりかとでもいうか、都民でない身としてはかなり面白がって観れた名物都知事が辞めて国政に出るとなると、隣の山火事がこっちに飛び火してきたみたいな迷惑感がある。
 で、総選挙は何時になりますかのう。
『ユダヤ警官同盟(上・下)』 マイケル・シェイボン 黒原敏行=訳 新潮文庫
 せっかく『パヴァーヌ』を読んだので、最近の〈歴史改変SF〉も読んでみたいな、と。
 2007年のヒューゴー、ネヴュラ、ローカス賞三冠。
 題名にあるとおり、戦前、〈現実〉に行われる直前までいったアラスカへのユダヤ人亡命者の入植計画が、「もし(歴史改変SFはIfテーマと呼ばれることもある)」成就していたら、という舞台装置で、その特別区がアメリカに「返還」される2ヶ月前に、過去に傷を持つ刑事が殺人事件の捜査にあたる、といういたってシンプルな構造。少しノワールがかった刑事モノとしても充分出来は良い。
 登場人物の大半……おそらく90%以上が「ユダヤ人」という特殊な環境だが、警察小説としては87分署的なアメリカの伝統に沿っているともいえる。(そういえば、アレもアイソラという架空の都市が舞台だった)
 死体の脇に、指しかけのチェス盤があり、かつてのチェス・チャンピオンの名でホテルに泊まっていた被害者という何とも思わせぶりな開幕。
 最近のアメリカ・ミステリーらしく、主人公の刑事はあることが原因で妻と別れ、心に傷を負っている。それと、もちろんユダヤ亡命者の二世、しかも、このシトカ特別区というのはいわば巨大なゲットーであって、それすら、もうすぐ「消滅」するという不安な情勢下での捜査。アラスカ州警察に移管するため、それまでの事件は封印するという上(別れた妻が、臨時の上司として派遣されてくるという皮肉もある)からの圧力。
 幼い頃に父親にチェスを仕込まれた経験があり、しかもその期待に応えられなかったという負い目がある主人公のランツマンは、ゴリ押しに単独で捜査する。
 やがて、被害者はユダヤ教のある宗派の指導者の一人息子で、神童、天才、「救世主」と期待されていた人物だったことが明らかになり始める。
 東欧やロシアにおけるかなりキツいシオニズム的な宗派である作中のユダヤ教宗派は、特別区の裏社会に通じた一種のユダヤ・マフィアでもあった。
 従兄弟で相棒のベルコ刑事は、ユダヤ入植者と原住民(ネイティブ)との混血という、さらに大きな疎外感を抱いている、とても興味深いキャラクターである点も良い。サブ・キャラとしてはこれ以上はないだろう。
 建国直後にイスラエルがアラブ諸国に破れたため、そこからも難民が流入してこのシトカは300万人以上の大都市になっている。
「公用語」がイディッシュ語らしいこと、通りや建物の名にユダヤ人の偉人の名が付けられていること…事件の起こるホテルは「ザメンホフ(エスペラント語の発明者)・ホテル」だったり、チェスのクラブが「アインシュタイン・ホール」だったり…ユダヤ教の慣習が生活に入り込んでいる様子など、〈歴史改変SF〉としては細部がよく出来ている。つまり、こちらとしてはその〈リアリティ〉を判定できるほどユダヤ人やユダヤ教、またはユダヤ問題といったものの知識があるわけではないが、何となく納得させられてしまう筆力はあるということだ。
「事件」の展開は捜査妨害や何らかの組織的な陰謀を感じさせながら、あるひとつの結論に達する。
 ハードボイルドが急に伝奇的な展開になる、その辺りがもしかしたらこの小説の中心部分かもしれない。預言に基づいた陰謀(かなり大掛かりな)が展開されていたことが分かるからだ……しかし、規模は全然違うものの、『マルタの鷹』にもそういう要素があったから、実はかなり正統的、だとも言える……
 歴史の何処が、どのように(そして、何故)改変されたのかには、あまり作者の注意は実は向いていない。『パヴァーヌ』を読めばわかるように、ソレがSFとしての眼目なのだが。
 むしろ、何処へ行っても、何処に定住しても(もしかしたら、イスラエルに住んだとしても)放浪者であり、故郷喪失者である「ユダヤ人」を描くことに主眼があったのかもしれない、と感じさせる小説だ。
 ミステリーとしてはトンデモ伝奇系の陰謀を交えた最近のトレンドに忠実であり、SFとしては瑕疵が少ない歴史改変モノだ。つまり、この作者はかなり手堅い印象がある。
 だが結局は、ユダヤ人の問題で避けては通れない〈アイデンティティ〉を、この主人公は『ユダヤ(原語ではイディッシュ)警官同盟』に置く/置こうとすることになるが、ソレが作者の〈ユダヤ問題〉への、もしかしたら答えで「言いたかったこと」なのかもしれない、と感じた。
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